夜香花
 日が中天に差し掛かる頃、真砂は伏見についた。
 伏見には入ったが、町には入らず街道からも少し外れた山の中から、町を見下ろす。

 町自体は平穏だが、大名屋敷群の辺りは人影もない。
 特に大谷屋敷などは、門は閉ざされ、打ち付けられている。
 人がいないのは明らかだ。

---城主の屋敷が、ここまでされるとは。大谷の殿様は、討たれたな---

 ということは、手がかりはないかもしれない。

---皆討たれたかもしれんな。戦場に行くのが確実だが……---

 だが当然ながら、戦場に足を踏み入れるのは危険極まりない。
 単なる興味のために、そこまでするのは愚かというものだ。

---ガキに拘りすぎているな。俺らしくもない---

 一つ息をつき、真砂は傍の木に登った。
 そして、手頃な枝に腰を下ろすと、ぼんやりと眼下の町並みを見下ろした。
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