夜香花
「どうだい? 何か、思い出したかい?」
貧相な小汚い子供の姿の捨吉が、傍らの深成に言った。
同じく小汚い格好の深成は、周りをきょろきょろと見ながら、首を傾げる。
「う~ん……」
「普通の人は、多分この先の街道を辿って、伊賀のほうへ抜けるんだ。でも、そんな街道を、子供を負ぶって疾走するわけにはいかない。きっと、普通の人が通らない道を通ってたんだと思う」
説明しつつ、捨吉は目だけで先のほうの街道を指した。
二人は真砂から遅れること一刻ほど、細川屋敷跡の前にいた。
「ここから伊賀までなんだが。お前さん、帰るときでも来るときでも、どっちから来たかぐらい、覚えてないか?」
「えっとね」
とことこと歩き、深成は正門跡から離れる。
そのままぐるりとほぼ半周し、裏手に回ると、小さく築地塀が途切れたところで、またきょろ、と周りを見回した。
「ここ。ここは裏手の小さい木戸で、ここからいつも出入りしてた」
「ここ?」
捨吉が、意外そうに塀を見上げた。
屋敷の裏手とはいえ、その木戸があったという途切れた幅は、あまりに小さい。
裏口とも呼べないようなところから出入りするなど、何か他に知られてはいけない理由でもあったのだろうか。
貧相な小汚い子供の姿の捨吉が、傍らの深成に言った。
同じく小汚い格好の深成は、周りをきょろきょろと見ながら、首を傾げる。
「う~ん……」
「普通の人は、多分この先の街道を辿って、伊賀のほうへ抜けるんだ。でも、そんな街道を、子供を負ぶって疾走するわけにはいかない。きっと、普通の人が通らない道を通ってたんだと思う」
説明しつつ、捨吉は目だけで先のほうの街道を指した。
二人は真砂から遅れること一刻ほど、細川屋敷跡の前にいた。
「ここから伊賀までなんだが。お前さん、帰るときでも来るときでも、どっちから来たかぐらい、覚えてないか?」
「えっとね」
とことこと歩き、深成は正門跡から離れる。
そのままぐるりとほぼ半周し、裏手に回ると、小さく築地塀が途切れたところで、またきょろ、と周りを見回した。
「ここ。ここは裏手の小さい木戸で、ここからいつも出入りしてた」
「ここ?」
捨吉が、意外そうに塀を見上げた。
屋敷の裏手とはいえ、その木戸があったという途切れた幅は、あまりに小さい。
裏口とも呼べないようなところから出入りするなど、何か他に知られてはいけない理由でもあったのだろうか。