夜香花
「わらわもさ、毎日毎日通って来てたわけじゃないんだよ。初めは三日とかぐらいずつだった。爺が忙しくなってからは、十日とかに延びたけど」

「……女中って、一人一部屋なのか?」

 大名屋敷でも、下働きの女中などは大部屋だ。
 何人かと一緒に寝泊まりしていれば、誰も夜に深成がいないのに気づかないのは、どう考えてもおかしい。
 厠に行く者もおろう。

「まさか。でもわらわは名目上、たら姫様の遊び相手だったし、多分特別扱いだったんだと思う。千代が来るまで、一人だった」

「なるほど。さすがに千代姐さんの目は誤魔化せなかったわけだ」

 納得したように言う捨吉に、深成はちょっと眉を寄せた。
 千代には、深成が自ら己のことを言ったのだ。

 だが何となく、先程から察するに、捨吉は千代を憎からず想っているようだ。
 そういえば、いつか河原で聞いた娘たちの話では、捨吉は千代と深い関係にあるとか。
 もっとも千代にとっては、真砂以外は単なる遊び相手なのだろうが。

 捨吉が千代を慕っているなら、わざわざ訂正することもないかな、と思い、深成は口をつぐんだ。

「お前も運がないというか。よりによって千代姐さんと同室になるとはな。でも特別扱いだったお前の部屋に、何で千代姐さんは入り込めたんだ?」

「わらわが頼んだんだよね。それまでは、他の侍女からは苛められてたし。お方様も、あんまり関心のない方とはいえ、たら姫様と同じ歳ぐらいのわらわを、それなりに可愛がってくれたし。子供のくせに、一人部屋でしょ。そういうので、周りは冷たかった」
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