夜香花
「里には、そんな奴いないぜ」

「……真砂は意地悪だよ」

 恨めしそうに呟いた深成に、捨吉は、一瞬きょとんとした。
 が、すぐに笑って、ひらひらと手を振る。

「頭領か。あれは違うよ。頭領だって優しいんだぜ?」

「ど~こ~が~~」

 思いきり顔をしかめ、深成はこの上なく恨めしそうに、捨吉を見る。

「真砂なんか、わらわが死にかけてるのに水に放り込むしさ。お腹空いても、いっつも自分の分しかご飯作らないしさ。人が作ったご飯は絶対食べないしさ。挙げ句の果てに、羽月とかいう子がわらわに攻撃仕掛けても止めないばかりか、殺せるなら殺してみろとか言うしさっ」

 真砂にされたことを、ぱっと思いつくまま言っただけでも、ろくなことはされていない。
 そんな男の、どこが優しいというのか。
 が、捨吉は、ちちち、と指を振る。

「それでも、お前さんはこうやって生きてるじゃないか。確かに頭領は、人から何かしてもらうってことを嫌うし、酒ぐらいしか皆と採ることってないけど。でもお前、ずっと頭領の家にいるんだろ?」

 こくりと頷く深成に、捨吉は感心したように息をついた。

「ほんとに冷たい人だったら、叩き出してるぜ?」

「……それは……。わらわが勝手に居座ってるだけだけど」

「それを許してるんだろ。飯だって、頭領が作ってくれないなら、お前さんは頭領の家で、勝手に作ってるんじゃないか?」

 またも、こくりと深成は頷く。
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