夜香花
「それも許してるってことだ。羽月を差し向けたのも、きっとお前さんは負けないという確信があったからだぜ」

「真砂は別に、わらわが殺されたっていいって、いつも言うよ」

 何故かちょっと悲しそうに、深成が言う。

 真砂は深成の仇討ちの相手だ。
 敵である。
 そうであっても、『別にお前が死んだって構わん』と言われるのは、存在自体を否定されているようなものだ。

 深成がここにいるのは、真砂があるからであり、真砂は深成の目的全てであるのに、その真砂からそのように面と向かって言われるのは、幼いだけに悲しいことなのだ。

 捨吉は、そんな深成の頭を、ぽんと叩いた。

「それもまぁ……本心なんだろうけど。何ていうのかな。頭領の優しさっていうのは、そういうことじゃないんだよ。『優しい』っていうんじゃないかもな。確かに怖いし」

 う~ん、と悩みつつ、捨吉は歩き出す。
 深成も、彼について歩き出した。

「頭領はさ、確かに思いやりってものはないよ。徹底的に他人は信用しないし」

 ついてきなよ、と言い、捨吉は深成の手を握ると、軽く走り出しながら語り出した。
 乱破としての力は出し切ってないが、常人よりもかなり速い。
 捨吉の想像する、深成の爺の速さだろう。
 喋りながら走るのも、うっかり速く走りすぎないためかもしれない。

「情がないっていうんだろうね」

 続く捨吉の言葉に、深成は以前に千代が言ったことを思いだした。

『情ある乱破は自滅する』

 真砂の持論だと言っていた。
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