夜香花
「真砂はさ、何か、そういう風になるきっかけってものがあったの?」

 捨吉に手を引かれたまま、彼の後ろを走っていた深成の問いに、捨吉は、少し躊躇いを見せた。
 しばし逡巡した後、前を向いたまま、ぼそ、と呟く。

「俺も、長老から聞いただけなんだけど。……頭領はさ、二親を、戦で亡くしてるんだ」

 深成は黙っている。
 別段珍しいことでもないからだ。

「ただなぁ、それが、戦って死んだわけじゃなくて、幼い頭領を庇っての死だったみたいでさ」

「……親なら、そういうことがあっても、おかしくないよ。むしろ普通なんじゃないの? わらわには、よくわかんないけど。でも、てことは、真砂は大事に育てられてたってことだよね。何であんなに、性格がひん曲がってるの?」

 深成の真砂に対する評価に、捨吉は苦笑いをこぼした。

「さぁ。長老が言うには、元々頭領は感情の起伏のない子供だったってことだけど。その戦でさ、攻めてきた敵に立ちふさがった父親が斬られた。その後頭領を抱き寄せて守った母親が斬られた。その経験が、でかいんじゃないかって」

「それは……確かに衝撃だったかもしれないけど。でもそれだって、戦の中じゃ珍しいことじゃないよ。そんな子、実際いっぱいいるでしょ?」

「詳しいことは、俺だって産まれてないんだから知らないよ。清五郎様にでも聞いてみたら? 清五郎様は頭領の一番の友達だし、頭領のことは、よっく知ってるよ」

 どうも捨吉は、考え方が明るいというか。
 乱破らしからぬ楽天的な考えをするようだ。

---わらわだって、あの真砂がお友達なんて作るとも思わないのに---

 でも確かに、里の誰より真砂と親しいのは清五郎だろう。
 真砂を呼び捨てにするのも彼だけだ。
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