夜香花
第十七章
「ところで」

 少しだけ足を緩め、捨吉は、ざっと辺りを見渡した。
 すでに結構な山の中だ。
 一応遠くに街道が見えるように進んでいるので、迷うことはないが。

「考えられる道順で、赤目のほうに進んでるんだけど。こういう道だった?」

 ちょい、と捨吉が、遠く街道を指して言う。
 う~む、と深成は、手を翳してきょろきょろと周りの景色を見回した。
 そして、つい、と手を挙げる。

「あの川。あれがずっと見えてたから、多分合ってる。あれを辿るようにして行けばいいんじゃないかな」

「宇陀川か。なるほど」

「そういえばね」

 思い出したように、深成が声を弾ませた。

「わらわの家からは、しばらく行ったところにさ、綺麗な水の川が流れててね、滝もあったんだよ。そこで泳ぐのが好きだったんだ。だから真砂に、川に放り込まれても泳げたんだ」

「へー、滝かぁ。ふむふむ、お前、やっぱり赤目の残党なんだなぁ」

 関心したように言い、捨吉は、そうか、と一つ頷いた。

「赤目の滝は、修験道だものな。そういうところで育ったとなると、確かにそれなりの能力があっても、おかしくないかな」

「あんたも、よく知ってるねぇ」

 てとてと、と後からついてくる深成に、捨吉は苦笑いをこぼした。
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