夜香花
「そっか……。でも、爺は城下のことにも詳しそうだった。そういう情報を、稲荷山のほうから得てたってこと?」

「そうだね、多分。ていうか、頭領も言ってただろ。お前の爺ってのは、純粋な忍びではないって。単に上役が、稲荷の……伏見のほうにいたんじゃないのか?」

「わらわ、爺にとっては邪魔だったのかな……」

 いくら先代頭領の子供だとはいえ、もう二人しかいないような党だ。
 深成を優秀に育て上げたとしても、忍び一党を復活させるなど、無理な話だ。

 そんなことは爺だってわかっていただろうに、先代頭領の子供だというだけで、見捨てることも出来なかったのではないか。
 こんな、何の力もないような子供を、爺は何故こんな山の中から、わざわざ城下の屋敷へ連れて行ったりしてまで育てたのだろう。

「もしかして、お前さん、お姫様だったりしてな」

「へ?」

「爺が仕えてたのが、結構な大名でさ。お前さんは、その殿様の娘だったりして」

「……まさか」

 二人して、あはは、と笑っているうちに、川の音が大きくなってきた。
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