夜香花
「真砂様」

 嬉しそうに腕に取り付く千代を邪険に払い、真砂は、す、と物陰に身を滑り込ませた。
 は、と千代も、辺りを見回す。
 真砂に会えた喜びが勝って、周りの注意を怠っていた。
 とりあえず誰もいないことを確かめると、千代は、改めて真砂の近くへ身を寄せた。

「真砂様。わたくしの情報、役に立ちましたでしょ?」

 密やかに、千代が言う。
 そして、壁に引っ付いている真砂へと、しなだれかかった。

「ご褒美をくださりませ」

 膝を真砂の足の間に割り込ませながら、千代は真砂の頬に唇を寄せた。
 しばらく女ばかりの舘に放り込まれて、相当飢えていたらしい。
 ぐいぐいと、全身で真砂を誘惑する。

「……四つ頃、北のほうが騒がしかったな。どいつか、掴まったのか?」

 胸を押しつけてくる千代をそのままに、真砂は問うた。
 真砂の首筋に舌を這わせながら、千代は、ああ、と応じる。

「真砂様かと思って、肝を冷やしましたわ。羽月(はづき)ですわね、捕らえられたのは」

 羽月は、捨吉が連れてきた者の中では、最年少だ。
 小さい分、すばしっこく身も軽い。

 だが何分、まだ何事も経験不足だ。
 結果を焦るきらいもある。
< 24 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop