夜香花
「おお、こりゃ大漁だなぁ。嬢ちゃん、お前さん、食える山菜をよく知ってるな」

 籠に山菜を受け取りながら、男が言う。
 深成は部屋に上がりながら、中をきょろきょろと見回した。

「小さいときから、教えられてきたもん。良い匂い」

 くんくんと鼻をひくつかせ、深成は囲炉裏の鍋に顔を近づけた。
 ぐつぐつと、猪鍋が美味そうに煮立っている。
 深成の目が輝くと共に、腹の虫が盛大に鳴いた。

 ここ最近ろくなものを食べていないのは、少なくとも深成に関しては当たっている。
 いつも真砂の家で自炊だったのだ。

 真砂の家にあるのは、米の他は芋や豆ぐらいで、肉などなかった。
 久しぶりに見る肉に、そういや真砂は、肉も食べずによくあれだけ身体を鍛えたものだと、内心感心する。

「さぁ、たんと食え」

 大きな木の器に、たっぷりと注がれた猪肉汁に、深成はまた、満面の笑みになった。

「いっただっきまぁ~す」

 手を合わせ、ぺこりとお辞儀すると、深成は大きな猪肉にかぶりついた。

「美味しいぃぃ~~」

 涙を流さんばかりに感動する深成に、男も嬉しそうに笑った。

「こんなもんが、そんなに美味ぇか。ほれ、たんとあるから、どんどん食え。兄ちゃんも遠慮するこたねぇぜ」
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