夜香花
「あまりじろじろ見るわけにもいかなかったので、どこに連れて行かれたのかは、わかりませんけど」

「室は?」

「お方様は、元々鬱々としたかたで、滅多にお部屋から出ませんので、今日も部屋にいるのではないですか?」

「何だお前。存在も確認してないのか」

 真砂の低い声に、びく、と千代の身体が強張った。

「だ、だって。お殿様ならお側に侍られるよう、努力致しますけど、同じ女子ですもの。どうしていいか……」

 千代が言い終わらないうちに、真砂は、ぐい、と彼女の身体を払いのけた。
 必要な情報を持っていない者など、用無しだ。
 真砂はそのまま、壁伝いに先へ進んだ。

「ま、真砂様……」

 泣き出しそうな千代をそのままに、真砂は辺りを窺いつつ屋敷内に入った。

「……?」

 調査通り、人気(ひとけ)は少ないようだが、何か慌ただしい。
 耳を澄ませば、遠く馬の駆ける音も聞こえる。
 がちゃがちゃという具足の音も。

 音はみるみる大きくなり、どうやらあっという間に屋敷が囲まれてしまったようだ。
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