夜香花
「ねぇ。このまま伏見に行くの?」

 横を走りながら、深成が捨吉を見上げた。

「う~ん。そのつもりだったけど、どうしようかな。大分時間を無駄にしちまったし、もう頭領には追いつけないかな」

 少し拓けたところで立ち止まり、遠くに見える町並みを眺めながら、捨吉が呟いた。

「それに、お前は別に、伏見までついて行ったことはないんだろ?」

 だったら深成を伏見に伴う必要はない。
 そもそも大谷屋敷を探るのは、真砂がやっている。
 真砂が調べた後で捨吉が調べても、真砂よりも何かを探り当てることなど出来るとも思えない。

「あの頭領が、ぐずぐずしてるわけないし、今から伏見に行っても、合流は出来ないだろうな。昨日も一日走り通しだったし、疲れたろ?」

 そう言って木陰に腰掛ける捨吉を、深成はまじまじと見た。
 不思議なものを見るような視線に、捨吉もまじまじと視線を返した。

「どうかした?」

「あんたって、ほんとに優しいねぇ。わらわ、こんな気遣われたことない」

 しみじみと言う。
 捨吉は曖昧に笑いながら、傍に生っていた木苺を口に放り込んだ。
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