夜香花
「湯浅五助だな」
あっさりと、真砂は男が仕えていたという側近の名を挙げた。
捨吉が驚いて、真砂を見る。
「頭領。何でそんなことを?」
「何故、と言われてもな……。たまたま、としか答えられんが。何も湯浅五助その人を知っているわけではない。大谷の殿様は、ちょっと特殊だったから、側近ともなればそれなりの者を置くだろうと思っていたし。湯浅は一応、忍び崩れだ」
え、と捨吉が目を見開く。
忍びは殿様に仕えることはあるが、表立って側近として仕えることは滅多にない。
影に動く忍びが、表舞台に登場することなど、己の仕事をしにくくするだけだ。
忍びの意味がないのだ。
捨吉の心を読んだように、真砂が言葉を続けた。
「忍び『崩れ』だと言ったろ。元々はちゃんとした忍びだったかもしれんが、昔の話だろう。伊賀の乱で落ち延びた奴じゃないかな。常人以上の身体能力があって、しかも槍の名手。それだけの腕があれば、特に大谷の殿様には重宝がられるだろう。しかも、伊賀の乱で伊賀者を討ち滅ぼしたのは、現東軍の奴らだ。大谷軍は西軍。一族の恨みを晴らすにも良い相手だ」
そこまで読んでいたのかはわからんがな、と呟いた真砂は、ふと深成がやけに真剣な顔で話に聞き入っているのに気づいた。
真砂の視線に、深成は少し迷う素振りを見せた。
「あ、あのさ……」
言うべきかどうか、といった風に、ちらちらと真砂を見る。
あっさりと、真砂は男が仕えていたという側近の名を挙げた。
捨吉が驚いて、真砂を見る。
「頭領。何でそんなことを?」
「何故、と言われてもな……。たまたま、としか答えられんが。何も湯浅五助その人を知っているわけではない。大谷の殿様は、ちょっと特殊だったから、側近ともなればそれなりの者を置くだろうと思っていたし。湯浅は一応、忍び崩れだ」
え、と捨吉が目を見開く。
忍びは殿様に仕えることはあるが、表立って側近として仕えることは滅多にない。
影に動く忍びが、表舞台に登場することなど、己の仕事をしにくくするだけだ。
忍びの意味がないのだ。
捨吉の心を読んだように、真砂が言葉を続けた。
「忍び『崩れ』だと言ったろ。元々はちゃんとした忍びだったかもしれんが、昔の話だろう。伊賀の乱で落ち延びた奴じゃないかな。常人以上の身体能力があって、しかも槍の名手。それだけの腕があれば、特に大谷の殿様には重宝がられるだろう。しかも、伊賀の乱で伊賀者を討ち滅ぼしたのは、現東軍の奴らだ。大谷軍は西軍。一族の恨みを晴らすにも良い相手だ」
そこまで読んでいたのかはわからんがな、と呟いた真砂は、ふと深成がやけに真剣な顔で話に聞き入っているのに気づいた。
真砂の視線に、深成は少し迷う素振りを見せた。
「あ、あのさ……」
言うべきかどうか、といった風に、ちらちらと真砂を見る。