夜香花
「そういえばね……。爺、槍が凄く上手かった」

 真砂の表情は変わらない。

「……湯浅五助は、そんなじぃさんじゃなかったと思うが」

 伊賀の乱のときに、すでに産まれていて、最近は大谷の殿様の側近、ということは、若くても三十半ばか。
 小姓でなく側近というからには、真砂と同じぐらいということはないだろう。
 しかし反対に、大谷の家臣に、老齢の側近がいたかと考えると、思いつかない。

 真砂とて、さして興味もない大名の家臣のことなど、全てを把握しているわけではないが。

「爺ってのは、わらわがそう呼んでただけで、実際はおじぃさんじゃないんだよ」

「早く言わねぇか」

「だって聞かれなかった」

「俺が散々『じぃさん』と言ってきただろうが」

「単に名前がわかんないから、わらわと同じ呼び方にしてるんだと思ってたんだもん」

 真砂と深成のやり取りを、捨吉は呆れたように眺めた。
 この真砂に、こんな自然に接することのできる子供がいるとは。
 心底迷惑そうな真砂に、捨吉でさえ、はらはらするのに。

「そんで、お前はその爺が、湯浅五助だと言うのか?」

 深成よりも捨吉のほうがいたたまれなくなり、思わず口を挟んだ。
 深成は何故か、斜めに頷く。

「そう……じゃないかと思うんだけど。だって、そう考えれば、全部繋がる」

 自身なさげに言う。
 先の斜めの頷きは、頷こうか首を捻ろうか悩んだ末の合体業だったようだ。
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