夜香花
「お前はその爺から、槍は教わらなかったのか?」

 それほどの名手なら、己の得意とする技を教えていそうなものだが。
 が、また深成は、困った顔をした。

「教わってはないけど。わらわの訓練に、爺が槍を使うことはあったよ」

 そう言って、深成は焚き火用に集めていた枝を掴むと、えい、えい、と繰り出した。

「こうやって、爺の出す槍を避けるの」

「やっぱり防御法だなぁ」

 当然ながら、深成のこの説明では、爺というのが湯浅五助なのか以前に、槍の腕がどの程度のものだったかもわからない。
 真砂はため息をついた。

「それだけかよ。それで、凄く上手かった、と思うわけか」

 馬鹿にしたように言う真砂に、深成は、ぷぅ、と膨れた。
 そして、いきなり持っていた枝を、真砂の肩口に打ち下ろす。
 結構俊敏な動きだったが、真砂は難なく、枝を掴んだ。

「ほら。こういう攻撃だって、爺はわらわより凄いんだから」

「何が凄いんだか」

 簡単に枝を受け止めた真砂が言うが、深成は駄々っ子のように、ぶんぶんと首を振る。

「違う! 今わらわは試したんだよ。思いっきり打ち下ろした槍を、相手に触れるぎりぎりで寸止めすることって簡単なのかなって」
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