夜香花
「……どういうことだ?」

 とりあえず床下に潜り込み、小さくなって後を付いてきている千代に問う。
 千代も、落ち着き無く周りを見渡し、怯えた表情で首を振った。
 それにまた、真砂は小さく舌打ちする。

「そういえば、ここの主は東軍に参加して不在だとか。とすると、その隙を突いて西軍が攻めてきたか?」

 のわりに、真砂が見た限りでは、屋敷の周りはいつもと何ら変わりなく穏やかだった。
 攻めてくるなら、それなりの兆候があるものだ。

「あ、あの。そういえば」

 千代が、おずおずと口を開く。

「昨日でしたか、家臣と思われる武将が、お方様を訪ねられて。何か話し込んでおりました」

「何を話していたのだ」

 真砂の問いに、千代は首を捻る。
 が、その瞬間の真砂の表情に、慌てて千代は、真砂の腕に縋り付いた。

「わ、わたくしはまだ新参者ですから、そうそうお方様のお部屋の周りをうろちょろできませぬ。やって来たのは、それなりの重臣のようでしたし、お方様のほうも、何か人払いをしてしまいましたので」

 決して己のせいではない、と主張する千代を、真砂は振り払った。
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