夜香花
「寸止め?」

 訝しげに、真砂は掴んでいた枝を放した。

「今、お前は寸止めしようとしたのか? その勢いじゃ、全然無理だぜ」

「爺は、それが出来るんだよ。さっきみたいに、地面に向けて繰り出してた槍を、いきなり振りかぶって、凄い勢いで振り下ろすんだ。でも、ほんとに打たれたら、わらわは死んじゃうかもしれないじゃん。もちろんそれも避けないといけないんだけど、避けきれないからさぁ」

「お前でも避けきれないのか」

 これは、ちょっと真砂も意外だった。
 深成のすばしっこさは、並みではない。
 本気で逃げたら、多分真砂でも手を焼くのではないか。
 真砂の反応に、深成は少し満足そうに笑った。

「だから、凄いんだって。ほんとに、見切れないんだもん。それでいて、わらわが避けきれないと瞬時に判断して、わらわの身体ぎりぎりで寸止めしてくれるの」

「ほぅ。そいつは……」

 この深成が見切れないほどの速い攻撃を、瞬時に型を変えつつ繰り出すのも大したものだが、さらにそれを相手の身体ぎりぎりで寸止めするとは。
 寸止めは、簡単に出来るものではないのだ。

「……こんな感じか?」

 言うなり真砂は、傍に置いていた自分の刀を掴み、素早く深成に向かって突き出した。

「うわっ」

 深成が慌てて避ける。
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