夜香花
「いたっ」

 捨吉の刀は、過たず深成の二の腕を叩いた。
 幸い鞘ごとだったし、寸止めしようとしていたので、思いきり打たれることはなかったが、それでも全く痛くないわけではない。
 深成は小さく叫び声を上げた。

「あ、ご、ごめん」

 捨吉が慌てて深成に駆け寄り、腕を見る。
 細い二の腕が、少しだけ赤くなっていた。

「結構な訓練を積んだ捨吉が、十分注意してもそれだ。しかも、さっきみたいな攻撃からの寸止めじゃない。それだけをしようとしても、そうそう出来るもんじゃないんだ」

 静かに真砂が言う。

「確かに。簡単だと思ってたけど、自分の攻撃を意識して殺すというのが、こんなに難しいとは思いませんでした。さすが頭領」

「別に、俺にしか出来ないわけじゃない。清五郎辺りなら、出来るだろうよ」

 尊敬の眼差しを向ける捨吉に、真砂は冷めた風に呟いた。
 真砂にかかれば、全てのことが大したことではないように思える。

 だが先の攻撃にしても、よく避けられたものだと思うほど鋭かった。
 寸止めの感覚を深成に思い出させるためだけのものなので、初めの突きも、ごく軽いものだったのだろう。
 だから避けられたのだ。

 それでもあの、寸止めに入る前の、思いも寄らない攻撃は、身震いするほど恐ろしかった。
 もしあれで、真砂が寸止めしてくれなかったら、と思うと、ぞっとする。
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