夜香花
「お前はそれでも乱破か。堂々と姿を見せぬと、立ち聞きもできないのか」

「お、お待ちください! わたくしには無理でも、人を介してなら、情報を得られます」

 冷たい目で見る真砂に必死で言い、千代は上の様子を窺うと、そろそろと床下から這い出た。
 そこへ、回廊を歩いてきた侍女の声がかかる。

「まぁ、何をしているの。ちょっと、大変なのよ」

 千代は急いで着物の汚れを叩きながら、侍女に駆け寄った。

「何か具足の音がして怖かったから、思わず床下に逃げてしまったの。ねぇ、何があったの?」

「お屋敷が囲まれたのよ。殿を西軍に寝返らせようと、お方様を人質に取りに来たようね。今この屋敷には、軍はおろか、男手もないもの。簡単に囲まれてしまったわ」

 物言いから、そう身分があるわけでもない侍女だろう。
 慌ただしく、千代に手招きする。

「このままここにいたら、巻き添えになっちゃう。私たちは関係ないもの。逃げるなら、今のうちよ」

 そう言って、侍女は足早に立ち去ろうとした。
 さっさと逃げ出したいので、床下から出てきた千代の不自然な言い訳にも気が行かない。
 千代が、慌てて侍女を呼び止めた。
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