夜香花
「……そっかぁ。そうだね、確かに」

 素直に、深成は納得する。
 捨吉は、少し意外そうに真砂を見つめた。

「頭領。この子って、頭領を狙う刺客なんでしょう? 何でわざわざ、武器の状態を教えるんです? そりゃこの子がほんとに刺客だなんて思ってませんけど、里の者でないのは事実じゃないですか。だったら変に武器のことなど、教えないほうがいいんじゃないですか?」

 いざ深成が真砂に襲いかかっても、武器が使い物にならなければ攻撃もできない。
 深成でなくても、真砂が刺客などにやられるようなことはないと信じて疑わない捨吉だが、念には念を入れたほうがいい。
 深成の武器が使えないなら、それに越したことはないと言いたいのだ。

 捨吉の意見に、特に反応するでもない真砂を、深成はちらりと見た。
 そういえば、羽月の苦無も真砂に言われて手に入れたのだ。
 何故わざわざ敵である自分に、真砂は武器を与えたりするのだろう。

---まぁ、わらわなんかにはやられないっていう、絶対的な自信があるんだろうけどさ---

 そう思えば、刃を見る真砂の整った無表情が、取り澄ましたように見えて憎たらしく思える。
 深成はふくれっ面で、真砂を見た。

「で? 何かわかったの?」

 何様? という物言いに、捨吉がぎょっとして深成と真砂を交互に見た。
 真砂は黙ったまま、じ、と刃を見ると、小枝を拾って地面に何か描き始めた。

「……何これ」

 地面には、複雑な曲線がうねうねと波打っている。
 どうやら見えたものを描き表しているようなのだが……。
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