夜香花
「……葉っぱ?」

「いや、花じゃないか?」

 深成と捨吉が、真砂の手元を覗き込みながら言う。
 が、真砂は渋い顔をした。
 どうやら違うらしい。

 慌てて捨吉は、さらに絵を良く見た。
 しかし、どう頑張っても『これ!』というものは浮かばない。
 困っていると、深成が、ひょい、と顔を上げた。

「真砂って、絵、下手なんだ」

 ぴき、と言われた真砂でなく、捨吉が固まった。
 すぐ傍で氷結している捨吉にも気づかず、深成はさらに、きゃきゃきゃ、と明るい笑い声を上げた。

「真砂も苦手なもの、あるんだね~。そりゃそうか。こんな無表情の冷血漢でも、一応人間だもんね~」

 楽しそうに笑う深成とは対照的に、捨吉は心の中で、ひえええぇぇっと叫び声を上げた。
 この恐ろしい頭領に向かって、駄目だしをするなんて!!
 あまりの恐ろしさに、捨吉は深成を止めることも出来ずに、ただ青い顔でだらだらと冷や汗を流し続けた。

「なら、お前が描いてみろ」

 特に腹を立てた様子もなく、ぶっきらぼうに言うと、真砂は深成の頭を自分の膝に倒した。

「下からのほうが、良く見えるんじゃないか」

 深成が暴れる前に説明する。
 大人しく真砂の膝の上に頭を乗せて、じっと炎に照らされる刃を見た深成は、思わず、わぁ、と声を上げた。
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