夜香花
「何これ。これも家紋なの?」

 ほとんど見えない根元の辺りに、複雑な図柄が見える。
 捨吉も、興味を覚えて身を乗り出した。

 が、さすがに真砂の膝に頭を乗せる勇気はない。
 至近距離に近づくのすら、恐ろしくて出来ない相手なのだ。

「何が見えるの? 描いてみてよ」

 己の目で見ることが出来ないからには、深成に描いてもらうしかない。
 捨吉は深成に小枝を渡した。
 小枝を握りしめ、深成は、じぃっと刃を睨む。

「えっと……」

 くるりと身体を反転させ、うつ伏せで腕を伸ばす。
 真砂の片膝に頭を乗せた格好だったため、そのまま反転すれば、真砂の膝にしがみつくような格好になる。
 だがそんなことは一切気にせず、深成は真砂の膝に顎を乗せて、う~んう~んと唸りながら、地面に絵を描いていく。

 まさかそのままの体勢で描くとは思っていなかった捨吉は、またはらはらと、真砂の様子を窺った。

「ん~……。こんな感じ?」

 相変わらず真砂の膝を枕に、深成が足をぱたぱたさせて言った。
 ほとんど地面の絵よりも、深成の態度が気にかかっていた捨吉は、やっと我に返って地面に視線を落とした。
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