夜香花
「……ちょうちょ?」
しかも、一羽ではない。
二羽が向かい合っているようだ。
深成は真砂の絵よりも上手く描けたことに、満足そうに笑ったが、言ってしまってから捨吉は、もしかして自分は頭領の顔を潰したのではないかと、肝を冷やした。
一人で冷や冷やしていると、不意に真砂が深成から小枝を取り、蝶の上に丸を付けた。
腹が立って絵を潰したのかと思った捨吉だが、どうやらそうではないらしい。
丸は均等に、それぞれの蝶に三つずつ。
「俺には、これも見えたがな」
言いながら、真砂は、ちょい、と自分の描いた丸を指した。
---そうだ。頭領が、そんなしょうもないことで腹を立てるわけないじゃないか。頭領はいつだって、冷静で感情を出すことはないんだし---
真砂は、捨吉はもちろん、里の者の憧れだ。
憧れの真砂が、そんな大人げない人間なわけはないし、実際真砂のことは、よく知っているつもりだ。
捨吉は頭を振って、先の己の間違った解釈を恥じた。
「この丸ってさぁ、意図的に入れたのかな? ただの傷かなぁと思ったんだけど」
「ただの傷が、こんな綺麗に入るかよ。大体刀身にそんな傷は付かないぞ」
「だって、ちょうちょにそんな丸、ないじゃん。ちょうちょの模様にも見えないんだもん」
口を尖らせて真砂を見上げる深成に、捨吉は微妙な顔になる。
深成は今の自分の状況がわかっているのだろうか。
何ら違和感なく、真砂の膝を枕にしている。
さらに、もう一度身体を反転させ、また仰向けになると、ふわぁ、と大きな欠伸をした。
しかも、一羽ではない。
二羽が向かい合っているようだ。
深成は真砂の絵よりも上手く描けたことに、満足そうに笑ったが、言ってしまってから捨吉は、もしかして自分は頭領の顔を潰したのではないかと、肝を冷やした。
一人で冷や冷やしていると、不意に真砂が深成から小枝を取り、蝶の上に丸を付けた。
腹が立って絵を潰したのかと思った捨吉だが、どうやらそうではないらしい。
丸は均等に、それぞれの蝶に三つずつ。
「俺には、これも見えたがな」
言いながら、真砂は、ちょい、と自分の描いた丸を指した。
---そうだ。頭領が、そんなしょうもないことで腹を立てるわけないじゃないか。頭領はいつだって、冷静で感情を出すことはないんだし---
真砂は、捨吉はもちろん、里の者の憧れだ。
憧れの真砂が、そんな大人げない人間なわけはないし、実際真砂のことは、よく知っているつもりだ。
捨吉は頭を振って、先の己の間違った解釈を恥じた。
「この丸ってさぁ、意図的に入れたのかな? ただの傷かなぁと思ったんだけど」
「ただの傷が、こんな綺麗に入るかよ。大体刀身にそんな傷は付かないぞ」
「だって、ちょうちょにそんな丸、ないじゃん。ちょうちょの模様にも見えないんだもん」
口を尖らせて真砂を見上げる深成に、捨吉は微妙な顔になる。
深成は今の自分の状況がわかっているのだろうか。
何ら違和感なく、真砂の膝を枕にしている。
さらに、もう一度身体を反転させ、また仰向けになると、ふわぁ、と大きな欠伸をした。