夜香花
「今日はここで野宿でしょ。ずっと走ってたから、眠くなった」

 そう言うと、そのまま深成は目を閉じた。
 呆れるほどすぐに、くぅくぅと気持ちよさそうに寝息を立て始める。

「……」

 真砂も捨吉も、茫然という風に、視線を落とした。
 朝からずっと走っていたのだし、疲れているのはわかるが、この状況で眠れるとは。

 捨吉は、そろそろと真砂を窺った。
 何と言っても、深成は真砂の膝枕で寝ているのだ。
 真砂に引っ付いて眠る深成も信じられないが、真砂がその状況に甘んじているのも信じられない。

 そう思っていたが、案の定、真砂はいきなり膝を引いた。

「にゃんっ!」

 ごん、と後頭部を地面で打ち、深成が叫び声を上げる。

「何すんのさっ」

「阿呆か。何故俺がお前に膝枕をしてやらにゃならんのだ。甘ったれるな」

「甘えてるわけじゃないもんっ」

 きゃんきゃんと吠える深成と、鬱陶しそうにあしらう真砂を眺め、捨吉は少し安堵した。
 真砂の意外に優しい一面を見たように思ったのだが、やはり相手が女子だろうと子供だろうと、変わらず冷たい。

---そうだよな。やっぱり頭領は、こうでなきゃ。大体頭領の優しさってのは、こういうことじゃないんだし---
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