夜香花
「あ、ねぇ。おまつは?」
「まつ?」
うるさそうに振り返った侍女は、つい、と屋敷の奥を指差した。
「あの子はお方様のお気に入りだし、きっと最後までお方様に従うだろ。馬鹿な子だよ」
言い捨てて、侍女は回廊を走っていった。
千代は、ぐるりと辺りを見回した。
築地塀の向こうには、無数の幟が見えている。
囲まれている、というのは本当らしい。
それにしては静かだ。
「人質が死んでは意味がない。生かして連れ去りたいだろうさ。それでなくても、ここの室は美貌と評判だしな」
は、と振り向くと、真砂が床下から身を起こして立っていた。
ぱん、と着物を叩き、にやりと笑う。
「なるほどな。西軍に捕らわれる前に、殺してしまえ、ということか」
「……それに、他の男の目に触れさせたくないのですわ、きっと」
千代が、奥へと真砂を誘いながら言う。
「殿は、お方様を溺愛しておりますもの。かつて太閤の手が伸びそうになったときも、殿はお方様に、お召しがあれば自害せよと命じられたほどですわ」
「まつ?」
うるさそうに振り返った侍女は、つい、と屋敷の奥を指差した。
「あの子はお方様のお気に入りだし、きっと最後までお方様に従うだろ。馬鹿な子だよ」
言い捨てて、侍女は回廊を走っていった。
千代は、ぐるりと辺りを見回した。
築地塀の向こうには、無数の幟が見えている。
囲まれている、というのは本当らしい。
それにしては静かだ。
「人質が死んでは意味がない。生かして連れ去りたいだろうさ。それでなくても、ここの室は美貌と評判だしな」
は、と振り向くと、真砂が床下から身を起こして立っていた。
ぱん、と着物を叩き、にやりと笑う。
「なるほどな。西軍に捕らわれる前に、殺してしまえ、ということか」
「……それに、他の男の目に触れさせたくないのですわ、きっと」
千代が、奥へと真砂を誘いながら言う。
「殿は、お方様を溺愛しておりますもの。かつて太閤の手が伸びそうになったときも、殿はお方様に、お召しがあれば自害せよと命じられたほどですわ」