夜香花
「無視してんじゃないよっ!」
一際高く吠え、それでも深成が反応しないと見るや、千代は憮然と息を吐き、やっと黙った。
「……何の用だ」
静かになったところで、真砂がやっと口を開く。
は、としたように、千代が振り向き、がばっと真砂に抱きついた。
「申し訳ありません。だってあの者がいるお陰で、千代は真砂様に抱いて貰えないんですもの」
真砂に縋り付いて言う千代だが、当の真砂は冷めた目で、手入れの終わった刀を鞘にしまった。
何の反応もない真砂には慣れたもので、千代は気にせず真砂の着物の合わせから手を忍ばせる。
「真砂様ぁ……。千代の我慢も限界です」
甘えるように言い、千代は壁にもたれて座っている真砂の上に半身を乗せるように、足を絡めた。
耳を塞いで顔を背けていた深成は、ちらりと下を見て、ぎょっとした。
「ちょ、ちょっと……」
慌てて降りようとして、思い留まる。
この夜更けに外に出ても、行くところなどない。
一際高く吠え、それでも深成が反応しないと見るや、千代は憮然と息を吐き、やっと黙った。
「……何の用だ」
静かになったところで、真砂がやっと口を開く。
は、としたように、千代が振り向き、がばっと真砂に抱きついた。
「申し訳ありません。だってあの者がいるお陰で、千代は真砂様に抱いて貰えないんですもの」
真砂に縋り付いて言う千代だが、当の真砂は冷めた目で、手入れの終わった刀を鞘にしまった。
何の反応もない真砂には慣れたもので、千代は気にせず真砂の着物の合わせから手を忍ばせる。
「真砂様ぁ……。千代の我慢も限界です」
甘えるように言い、千代は壁にもたれて座っている真砂の上に半身を乗せるように、足を絡めた。
耳を塞いで顔を背けていた深成は、ちらりと下を見て、ぎょっとした。
「ちょ、ちょっと……」
慌てて降りようとして、思い留まる。
この夜更けに外に出ても、行くところなどない。