夜香花
第二十一章
「頭領の父親は、ごくありふれた乱破じゃった。さほど秀でているわけでも、そう愚鈍なわけでもない。従って、取り立てて目立つこともない、普通の乱破じゃな。母親は、これまた似たような、普通の里の女子。父と母は、初めから仲が良かったから、夫婦(めおと)となるのも自然じゃったな」
横になったまま、独り言のようにぽつぽつ話す長老の話を、深成も天井を眺めながら聞いた。
どうやら真砂は、普通の穏やかな両親から産まれたらしい。
今の真砂からは、想像できないが。
そのような両親から、どうやったらあんな冷血漢が産まれるのか。
「当時は我らも、もう少し西におった。頭領が四つか五つの頃か、里が襲撃されたんじゃ」
「伊賀の乱ってやつ?」
深成の問いに、長老は闇の中で首を振った。
「それは、もう治まっておった。そのはずじゃった。したが、信長公に取り入ろうとする輩は、どんな些細なことでも利用する。乱破というだけで、耳に入れる価値はあるからの。信長公は、伊賀といい雑賀といい、忍びに煮え湯を飲まされること数知れずじゃ。たまたま見つけた我らの党を襲撃するのも、我らが乱破だから、というだけで理由は十分」
「忍びの里なのに、そんな普通のお侍が、よく見つけたね」
「……内通者がおったのだ」
え、と深成は、顔を長老のほうへと向けた。
長老は相変わらず、上を向いて目を閉じたまま続ける。
横になったまま、独り言のようにぽつぽつ話す長老の話を、深成も天井を眺めながら聞いた。
どうやら真砂は、普通の穏やかな両親から産まれたらしい。
今の真砂からは、想像できないが。
そのような両親から、どうやったらあんな冷血漢が産まれるのか。
「当時は我らも、もう少し西におった。頭領が四つか五つの頃か、里が襲撃されたんじゃ」
「伊賀の乱ってやつ?」
深成の問いに、長老は闇の中で首を振った。
「それは、もう治まっておった。そのはずじゃった。したが、信長公に取り入ろうとする輩は、どんな些細なことでも利用する。乱破というだけで、耳に入れる価値はあるからの。信長公は、伊賀といい雑賀といい、忍びに煮え湯を飲まされること数知れずじゃ。たまたま見つけた我らの党を襲撃するのも、我らが乱破だから、というだけで理由は十分」
「忍びの里なのに、そんな普通のお侍が、よく見つけたね」
「……内通者がおったのだ」
え、と深成は、顔を長老のほうへと向けた。
長老は相変わらず、上を向いて目を閉じたまま続ける。