夜香花
「そ、それはそうだけど。でもこの党の皆のことは、裏切ったわけでしょ? 恨まないの?」

「草の主は、初めから一人じゃ。使命に忠実に従っただけ。それを恨むことなどない。それにの、草は、やはり諸刃の剣じゃ。多くの草がそうであるように、やはり頭領の母も、完璧な草にはなりきれんかった。頭領を庇おうとして、討たれてしもうた」

 そういえば、捨吉がそんなことを言っていた。

「お父さんも、そのときに死んじゃったんだね」

 闇に沈黙が落ちる。
 ややあってから、長老が小さく頷いた。

「初めは御影が、二人の盾になった。先にも言うた通り、御影はさして優れた腕でもない乱破じゃ。敵と戦うも、敵わず倒れた。草は懐に入り込むだけの忍びじゃからな、敵とは渡り合えない。頭領を庇うも、呆気なく敵の手にかかった」

「皆を殺すために手引きしたくせに、真砂のことは救おうとしたの? 自分の子供とはいえ、勝手だね」

 おや、と長老が、僅かに深成のほうへと顔を向けた。

「お前さん、なかなか賢いの。でものぅ、その辺りは葛藤があったんじゃろ。草が斬られてすぐに、わしや今の東の長老などが駆けつけた。見るも無惨に切り刻まれた御影と草が、折り重なるように倒れておった。まだそのときは、我らは御影の妻が草とは信じられなんだ」
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