夜香花
 侍女の言葉に頷き、千代は駆けだした。
 真砂は梁を伝いつつ、千代を追う。

 やがて、回廊の先に具足を纏った武者が守る部屋が見えた。
 部屋の前にも横の庭にも、武者が控えている。
 ここが、狙う室の部屋だ。

 千代は武者の姿に気づいた時点で、素早く物陰に身を潜めた。
 そして、ちらりと上を向く。
 真砂は、千代のすぐ真上に移動した。

「人を介して情報を得る、と言ったな。‘まつ’とかいう侍女が、お前に情報を流すのか」

 小さく、真砂の声が千代の耳に届く。
 それに頷くと、千代も同じように、人には聞き取れないほどの小声で説明した。

「まつは、わたくしが手懐けた侍女で、お方様のお気に入りです。普段お方様の傍におりますので、お方様の情報は、おまつから得られます」

 ですが、と千代は、回廊の先を睨む。

「あのように、侍が詰めていては……」

 真砂も壁の隙間から、目指す部屋を囲む侍を見た。
 人数は、そう多くない。
 斬り合うだけなら、真砂一人でも何とかなろう。

 が、今はあまり事を荒立てたくない。
 派手に部屋の外で斬り合って、その間に獲物を逃がしてしまうわけにはいかないのだ。

 それに、乱破は的(まと)以外に、そう姿を曝すことはない。
 目的のみを、密やかに遂げる。
 それが乱破の仕業だと、わからないほうがいいのだ。
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