夜香花
第二十二章
 目の前をさらさら流れる川を眺め、深成はぼんやりしていた。
 時折思い出したように、傍らの小石を掴むと、川の中にぽちゃんと投げ込む。
 そのたびに、川面が少しだけ乱れ、小さな飛沫が上がる。

 真砂の家から飛び出して二日ほど。
 何となく帰りそびれて、ずるずると長老の家に厄介になっている。

 深成が飛び出したっきり帰らなくても、当然真砂が探しに来る様子はない。
 ちょっとは心配したり気にしたりしないものかと腹が立ったが、長老の話を思い出すと、そんな思いも霧散する。

 真砂が一人の人間を気にかけることなど、ありはしないのだ。

 深成は顔を上げた。
 空が、赤く染まっている。
 もう少しで、夕闇が落ちるだろう。

 今宵は新月。
 月明かりはない。
 深成はゆらりと立ち上がった。

---真砂の人間性がどうであろうと、わらわには関係ない。わらわの目的は初めから一つ。真砂を殺すことだ---

 真砂が調べていた己の出生に関することなど、気にならないわけではないが、それもおそらく、今更知ってもどうでもいいことだ。
 真砂を殺した後どうするかとか、考えれば不安要素は多々あるが、兎にも角にも目的を果たそうと、深成は里のほうへと移動した。
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