夜香花
 囲炉裏の火に照らされて、着物を大きく乱した千代の裸体が光っている。
 全身汗に濡れて、荒い息を吐いている千代の横では、単を引っかけただけの真砂が座っている。
 静まり返った室内には、囲炉裏の火が立てるぱちぱちという音と、千代の息遣いしか聞こえない。

 少し整ってきた息をつきながら、千代はぼんやりと、真砂の背を見つめた。

 深成が飛び出していってから、千代は毎晩のように、真砂の元へと通っている。
 以前はいくら千代が誘っても、毎晩は相手にしてくれなかったのに、あれからは千代がここに来れば、真砂は千代を引き寄せる。
 まだ二日ほどだが、真砂に求められているようで、千代は嬉しくてしょうがない。

「真砂様……。あの娘、結局帰ってこなかったんですの? 里にはまだいるのかしら」

「さぁな。どうだっていい」

 素っ気なく言い、真砂は単の前を合わせた。
 
 その瞬間。
 勢い良く真砂が身体を反転させた。
 壁に背を付けた真砂の頬に、一筋赤い線が走る。

 真砂が傷を負ったことに、千代は目を見開いた。
 だが驚く間もなく、真砂目掛けて数本の苦無が飛来する。

「まっ真砂様っ!」

 千代が上体を起こして叫ぶが、その千代の襟首に、一本の苦無が突き刺さった。
 苦無はそのまま、千代の着物を床に縫いつける。
 思わず千代は、再び仰向けに倒れた。
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