夜香花
 凄い攻撃だ。
 真砂に反撃の隙を与えず、且つ一瞬で邪魔な千代を動けないよう排除した。
 しかも、いまだに攻撃の主の気配は感じられない。

 真砂が攻撃を避けつつ、己の刀に手を伸ばした。
 が、指先に苦無が飛び、刀を弾く。

 そして一際鋭い殺気が部屋を満たしたかと思うと、どこからか小さな影が飛び出し、真砂にぶち当たった。

「……っ」

 真砂の首筋を狙った懐剣は、ぎりぎりのところで苦無に受け止められていた。
 深成は最後に、身体ごと真砂に突っ込んだのだ。
 全体重を乗せた懐剣を、真砂の首に沈めるつもりだった。

 だがその捨て身の攻撃は、真砂の苦無で阻まれた。
 やはり、丸腰に見えて、そうではなかった。
 真砂は片手で握った苦無で、己の喉元にある懐剣を抑え込んでいた。

「……くっ……」

 至近距離で、深成が真砂を睨んだ。
 今まで見たこともない、殺気に燃える瞳。

 いや、と真砂は思い出す。
 以前にも、この目を見た。

 細川屋敷で、真砂に向かってきたとき。
 あのときも、真砂は腕に傷を負った。
 深成が本気で向かってきたら、いかな真砂であっても無傷ではいられない、ということか。
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