夜香花
第二十三章
『のぅ深成。今日は何をしておったのじゃ?』
夜道を駆けながら、幼い深成を負ぶった爺が聞く。
いつものように、山道はすでに真っ暗だ。
初めのうちこそ深成にとっては足元もおぼつかない暗闇の獣道を走る爺に驚いたが、すでに慣れた。
『ん~、いつもと同じだよぅ。たら姫様と、鞠で遊んで……。あ、そうだ!』
爺の背で、眠くなった目を擦りつつ報告していた深成は、不意にぱちっと目を開いた。
『今日ね、お方様が、わらわを褒めてくれたんだよ』
『褒めて?』
『爺がくれたこの懐剣、たら姫様をお守りしなさいって持たされたって言ったら、お方様が、それは良い心がけですって』
前を向いたまま、爺は含み笑いを漏らした。
『お方様がね、それではいざというときは、お前がしっかりとたら姫を連れて逃げなさいって言ったの』
その言葉に、ちらり、と爺が視線を動かした。
『いざというとき? お方様は、えらく物騒なことを言うのじゃな』
爺は何でもないことのように、話を続ける。
『何だかねぇ、最近お屋敷の中が、わやわやしてるの』
『わやわや?』
『殿がね、また戦に出て行くかもって』
夜道を駆けながら、幼い深成を負ぶった爺が聞く。
いつものように、山道はすでに真っ暗だ。
初めのうちこそ深成にとっては足元もおぼつかない暗闇の獣道を走る爺に驚いたが、すでに慣れた。
『ん~、いつもと同じだよぅ。たら姫様と、鞠で遊んで……。あ、そうだ!』
爺の背で、眠くなった目を擦りつつ報告していた深成は、不意にぱちっと目を開いた。
『今日ね、お方様が、わらわを褒めてくれたんだよ』
『褒めて?』
『爺がくれたこの懐剣、たら姫様をお守りしなさいって持たされたって言ったら、お方様が、それは良い心がけですって』
前を向いたまま、爺は含み笑いを漏らした。
『お方様がね、それではいざというときは、お前がしっかりとたら姫を連れて逃げなさいって言ったの』
その言葉に、ちらり、と爺が視線を動かした。
『いざというとき? お方様は、えらく物騒なことを言うのじゃな』
爺は何でもないことのように、話を続ける。
『何だかねぇ、最近お屋敷の中が、わやわやしてるの』
『わやわや?』
『殿がね、また戦に出て行くかもって』