夜香花
「痛いっ!!」

 叫んだ途端、目が開く。

「あ、気がついたかい」

 ずきずきと疼く肩に布を当てて、捨吉が覗き込んでくる。

「いやぁ、全然目を覚まさないから、心配したよ。初めは血みどろだったし、もう駄目かと思った」

 何気に不吉なことを言いながら、捨吉は注意して深成の肩を一通り拭うと、傍の桶に布を放り込む。
 深成はうつ伏せに寝転んだまま、目だけで辺りを窺った。
 真砂の家だ、と気づいた瞬間に、己の怪我の原因も思い出す。

「……わらわ、生きてるんだ……」

 何か夢を見てたなぁ、と思いつつ、ぼんやりと深成は口を開いた。

「ん? ああ、そうだね。頭領にやられたんだろ? よく無事だったよね」

 無事、とはどういうことか。
 捨吉が『駄目かと思った』と言うほどの傷を受けたのに、相手が真砂だと、生きてるだけで『無事』なのか。

 しかし、自分でも確かに、今生きているのが不思議だ。
 あの後、あのまま深成は気を失ったのだろう。
 何故真砂は、とどめを刺さなかったのだろう。

 放置してそのまま殺すつもりなら、家からは叩き出すはずだ。
 端から殺すつもりの者を、じわじわ弱っていくまま傍に置いておくほど、物好きではないはずだ。
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