夜香花
 深成が真砂を襲ったのは、夜更けとはいえ夜半にもなっていない時刻だ。
 元々もっと早く押し入る気だったのだが、千代を待つうちに随分時間が経ってしまった。
 結局千代がいるのは仕方ないと、そのまま踏み込んだわけだが。

「真砂の家なのに、よくわらわを見つけられたね」

 長老や、追い出された千代に聞いたとしても、捨吉ではおいそれと真砂の家の中まで入れないだろう。

「いや、夜中にさぁ、いきなり千代姐さんに誘われてさ」

 ははは、と若干照れながら、捨吉が言う。

「えらい荒れてるから何事かと思ったら、お前が頭領に挑みかかったって聞いてさ」

「……それでも、真砂がいるのに飛び込んでは来られないでしょ?」

「もちろん。でも気になって、夜が明けてすぐにこの家の前まで来たんだけど、どうしようかと迷ってさ。とりあえず、その辺にお前が捨てられてないか捜してたら、頭領が出てきたんだ」

 さらっとした言葉とは裏腹に、なかなかグロいことを言う。
 真砂に殺されていたら、今頃はその辺りの茂みの中に捨てられていたということか。
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