夜香花
「で、思い切って頭領に聞いたんだ。そしたら、家の中を指して、中に転がってるって」

 真砂はそのままどこぞに去ったが、驚いて真砂の家のほうに走った捨吉に何も言わなかったということは、家に入るのを許したということだ。
 ということで、捨吉は真砂の家に入り、そこで血まみれの深成を見つけた、ということだった。

「いやぁ、ほんとにびっくりしたよ。まぁ……頭領が平気な顔で出てきたし、ということは、お前は負けたってことだから、殺されてても仕方ないけど。あんまり酷い傷だったし。でも何となく、お前は殺されないかも、とも思ってた」

 だから余計、深成の状況に驚いたのだと言う。

「何で、わらわは殺されないって思うの?」

「何となく、だよ。よくわからない。そんなわけはない、とも思うんだけど、頭領、お前のこと、気に入ってるような気もするんだよ。いや、これはほんとに、そんなわけないと思うんだけどね」

 何故かまた照れたように、捨吉はぶんぶんと顔の前で片手を振る。
 深成も、しみじみと『そんなわけはない』と思う。
 だが、真砂が深成を殺さなかったのは事実だ。

「それにね、その傷」

 ちょい、と深成の肩をつつき、捨吉が言う。

「俺が飛び込んだとき、お前は血みどろだったけど、その傷口には、酒がかかってたよ」

 え、と僅かに、深成の目が見開かれる。
 傷口に強い酒をかければ、消毒になる。
 怪我をしたときの、応急処置だ。

 誰が---。
 真砂しかいない。
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