夜香花
「そいで、やっぱり頭領は、お前を殺すつもりはないんだって思ったわけ。ま、今更かもしれないけど。頭領がやろうと思えば、お前はとっくに死んでるし」

「それはそうだけど、どっちにしろ消毒しただけだったら、弱って死んでたかもしれないじゃん」

 言いつつ、一番初めにここに来たときのことを思い出す。
 もう少しで飢え死にするぐらい弱った。
 だが直前で助けられている。
 洗っただけだと真砂は言っていたし、その方法も、一歩間違えば死んでいたような、手荒な手段だ。

 だがよく考えてみれば、川から無事に上がった深成に向かって、真砂は『やはり』と言っている。
 予感があったということだ。

 いつでも真砂は、深成が生き延びられるであろうことを見越して、何かをけしかけているのだ。
 『お前が死んでも構わん』というのも、本心なのだろうが……。

「そうかな? そのわりに、俺がお前の看病をするのを、咎めることもなかったよ」

「真砂、いないじゃん……」

「今はね。お前、丸二日寝てたんだよ。その間ずっと、俺が看病したけど、別に頭領、何も言わなかったよ」

「二日?」

 そんなに長い間寝ていたのか。
 改めて、よくもまぁそんな状態の自分を、真砂が黙って置いておいたものだと思う。
 それだけ寝てれば、お腹も空くわな、と思った途端、またくるる、と深成のお腹が鳴いた。

「ほんとに、動物的だよね。怪我したら、徹底的に動かないで、とにかく傷を治す。起きたということは、もう大丈夫ってことだよね。じゃ、夕餉を持ってきてやるよ。まだ自分で作るほどには、回復してないだろ?」

 そう言って、はい、と水の入った竹筒を渡し、捨吉は家から出て行った。
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