夜香花
「さっきさぁ、あんた、わらわがもっとおっきくなったら、もうちょっと良い勝負になる、みたいなこと言ったよね」

 焼き魚を頬張りながら、深成は真砂に話しかけた。
 ちらり、と真砂の視線が上がる。

「何でそんなことがわかるの? おっきくなったって、技とかを教えてくれる人がいないと、強くはならないでしょ。わらわには、もうそんな人はいないよ? あんたが教えてくれるの?」

「阿呆。何で己の不利になるようなことに、手を貸さにゃならんのだ」

 深成の口がひん曲がる。
 ばん、と深成は、床を叩いた。

「だから! だったら何で、そう思うのさ! あんたからしたら大したことない攻撃だったかもしれないけど、わらわはほんとに、本気だったんだから! それでもあんたは、かすり傷しか負わなかったじゃん」

 きゃんきゃんと吠える深成に、真砂は椀を置いて、ふぅ、と息をついた。
 灰に刺さった焼き魚の串に手を伸ばす。
 いきなりずいっと、深成が身を乗り出した。

「ちゃんと教えないと、その魚も食べちゃうからっ」

 妙な脅しに、真砂が僅かに顔をしかめる。
 だが確かに、今の位置だと魚を手にするのは深成のほうが早そうだ。
 ……どうでもいいと言えば、それまでだが。

「お前さっき、捨吉に夕餉を貰っただろう。その上俺の魚まで食って、まだ食う気か。食い過ぎだ」

「あんたがちゃんと、わらわと話してくれないと、今後あんたの食事は、全部食べちゃうんだからっ」

 そう叫んで、深成は真砂の膝頭にあった器を奪うと、ささっと鍋の中身を根こそぎ入れた。
 そしてそれを抱え込む。
 もっともすでに鍋の中身は、器の半分もなかったが。
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