夜香花
「……一体お前は、何が知りたいんだ」

 鬱陶しそうに言う真砂に、深成は少し表情を和らげ、う~ん、と首を傾げた。

「そうだなぁ。……あのさ……」

 真砂に聞きたいことは、山ほどあるのだ。
 ついさっき聞いたこともそうだし、以前調べていた、深成の出生に関すること。

 真砂が何故深成を殺さないのかも謎だし、言ってしまえば、真砂という乱破そのものが謎だ。
 何をどう考えているのか、さっぱりわからない。
 だが深成の口から出た疑問は、そのようなこととは全く関係のない事柄だった。

「わらわはこの先、どうすればいいのかな……」

 真砂が、訝しげな顔になる。

「真砂には敵わないっていうのはわかってる。おっきくなったらわかんないって言われても、それまでは? わらわはもう、里も家もないもの。ずぅっとここにいるわけにもいかないでしょ」

 このようなこと、真砂に言っても仕方ないことはわかっている。
 それこそ、『知ったことか』と言われるのがおちだ。

 だが今、深成の心にあるのは、今後どうするか、ということの不安だった。
 というのも、後先考えずに真砂に向かっていって負けたのだ。
 負けたら殺されるものだと思っていた。
 だから先のことなど考えなかったのだ。

 だが実際は、完膚無きまでに叩きのめされたわりに、命は助けられてしまった。
 力の差をまざまざと見せつけられた以上、もう深成には、もう一度真砂に向かう気など起きようもない。
 そう思っていたのだが……。
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