夜香花
「お前は何か、迷いがあるな」

 無視されると思った深成の思いに反して、真砂はちゃんとした言葉を返した。

「確かに殺気も凄かったし、本気だったんだろう。でも、いざ俺と斬り結ぶ場面になると、お前の中に、どこか迷いが見える」

「……」

「人を斬ったことのない奴には、ままあることだがな」

 刀で人を斬るということは、考えているよりも勇気のいるものだ。
 まして深成のような非力な子供であれば、力も十分でない。

 確実に急所を突けなければ、返り血を浴びながら、苦しむ敵を何度も斬らねばならないのだ。
 斬るほうにも斬られるほうにも地獄である。

 だが。
 深成は考える。
 真砂は、深成の迷いは人を斬ることへの躊躇いだと言うが、果たして本当にそうだろうか。

 自分的には、迷いなく真砂に突っ込んでいったつもりだった。
 今指摘されて、初めて迷いがあったのかと考えるほどだが、言われてみれば、そうかもしれない、とも思う。

 でもそれは、人を斬ることへの躊躇いというよりは、『真砂を斬る』ことへの躊躇いではないのか。
 何故だろう、と深成は真砂を見つめた。
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