夜香花
第二十五章
 ふと、真砂が視線を空(くう)に投げた。

「最近また、城下が騒がしい」

 何か不穏な空気を察知して、真砂はよく、城下近くまで出かけて行っては、付近の様子を調べている。

「でかい戦は、東軍の勝利に終わったようだが。残党狩りは、これから起こるだろう」

 ぽつぽつ話す真砂に、深成は黙って耳を傾けた。
 真砂が城下のことや、世の中のことを話してくれるとは珍しい。
 何故今そんなことを話すのかはわからないが。

「……でも。この党は別に、どこにも属してないんでしょ。お殿様に仕えてるわけでもないんだったら、そんなの関係ないことじゃないの?」

「残党は、大抵が山に逃げる。俺たちにとっては、戦の後の残党狩りのほうが厄介だ。いくらおいそれとは見つからないような里の造りだとしても、有を無にしているわけではない。まして世の殿様の多くは、子飼いの忍びを持っている。それらを放てば、ここだって安全とは言えん。万が一落ちた西軍の武将などがここに身を寄せていたりしたら、こんな小さい乱破の群れ、里ごと葬られる」

「でも、今までそんなこと、なかったんでしょ。そんな簡単に見つかる里でもないじゃん」

「さっきも言っただろう。あるものをないようにしているわけではない。現に、お前には見つかっている。ここだって、一度潰されてるんだ」

 それはおそらく、例の真砂の両親が死んだ戦のことだろう。

「んでも。今はそんな敵のお侍、いないじゃん」

 真砂の言いたいことがわからず、深成は、ばん、と床を叩いた。
 何故今このような話題をしているのか、さっぱりわからない。
 そんな話をしていただろうか?
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