夜香花
 が、苛々と真砂に詰め寄った深成は、その真砂の視線にたじろいだ。
 じっと、深成の目を真っ直ぐに見ている。

「大谷の殿様は、討たれていた」

 ややあって、真砂がそのまま口を開いた。

「湯浅五助も、最期まで殿様と共にあり、殿の後に死んだらしい」

「爺が?」

「伊吹山に分け入っていたようだ。赤目のほうに逃れようとしていたのかもな」

 深成は視線を落とした。
 爺は死んだわけではなかった。
 やはり、深成を置いて戦に出ていたのだ。

 しかも西軍。
 細川の殿は、東軍だった。

「わらわは、知らないうちに、お方様を裏切っていたのか」

「まぁ……そういうことになるな」

 幼い深成の情報など、大方は役にも立たないものだったろう。
 だが聞かれることには、素直に全て答えていた。

 殿が、いつ、どこに出陣していったか。
 それだけでも、かなり重要な情報になる。
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