夜香花
「えっ……。だ、だって、いくら爺が大谷の殿様に仕えてたからって、そんな、家臣の縁者にまで気を回す? ましてわらわなんて、殿様に会ったこともない、誰もわらわのことなんて知らないような人間じゃん」

「お前が本当に赤目の、深成の党出身の者で、それをたまたま湯浅が引き取っていたというのなら、何も問題はないだろうさ。でも、残念ながらそうじゃない。お前は、もっと大きな鍵だ」

「どういうことさ」

 深成の声が、僅かに震えを帯びる。
 真砂は、何かを深成のほうに放った。
 がらん、と音を立てて、深成の膝頭でくるくると回っているのは、彼女の懐剣だ。

「それを調べて、全てわかった。お前は西軍に、がっつり食い込んでいる人物だ」

「そりゃ……。爺が西軍の殿様に仕えてたのなら、そうなんだろうけど」

「それだけじゃない。お前は本当に、己の出自を知らないんだな。……大谷の殿様は、お前の祖父だ」

「えっ! 爺は、お殿様だったの?」

 驚く深成に、真砂は少し眉を顰めた。

「……お前の言う『爺』ってのは、湯浅のことだろ。それは間違いなく湯浅五助だろうさ。大谷の娘が、お前の母親だ」

「ななな、何で? 何でそんなことまでわかるの?」

 ずいっと身を乗り出す深成に、真砂は若干仰け反りながら、ちょい、と先程投げた懐剣を指す。
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