夜香花
「え? わらわ、そんなことしてたかなぁ」

「修行とは思ってないかもな。お前のお守りを、真田の十勇士に頼めば、そこでお前と忍びの者は親しくなる。お守りを忍びに託すほど、お前は大人しいお姫様じゃなかったんだろ」

「知らないくせにっ」

「見てりゃわかるさ。お前は部屋に閉じこもって手遊びをするようなガキじゃなかっただろ? 屋外で遊ぶほうが好きだったんじゃないか? ……よく日焼けしてるしな」

 ぐ、と深成が黙り込む。
 確かに、たら姫のようなお人形を使っての遊びとかは、何が楽しいのかわからなかったし、外で遊んだって、美麗な鞠を緩やかに投げるだけだ。
 深成はもっと、動き回りたかった。

「お前の記憶にもないぐらいのときに、真田の十勇士が相手をしてりゃ、才能のある奴は、それなりに身につくもんだ。十勇士と言われるぐらいだ。お前の才能を見抜いた奴もいるだろう。そういう奴が、忍びの基本を、お前に叩き込んだんじゃないか? そして、それをお前は見事に自分のものとした。お前の父親も、それを認めたから、幼いなりにも間者の役目を負わせたのかもしれん」

「でもさ。なんでわらわだけ、家から出されたの?」

「さぁな。お前のその、忍びの技術を活かそうとしたのかもしれんし、不穏な動きに、お前を隠すことにしたのかもしれん。ま、そのお陰で、お前の存在を知る者は、一族の中にも、そういないだろうが」

 そこが少し不思議なのだ。
 いくら世の中が不安定で、子を隠そうと思っても、一人だけというのは解せない。
 まして深成は女子だ。
 嫡男でもないのに、何故一族からも存在を隠すのか。
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