夜香花
「お前は正室の娘、というわけではないのかもな」

 深成は黙っている。
 一度にいろいろ重い話をされて、そろそろ脳の容量がいっぱいになってきたのか。

「年齢的にも、そうおかしなところはないが、真田の次男坊には、大谷の娘が嫁す前に、何とかいう家臣の娘が嫁していた、という噂もある。はっきりせん噂だが。それが本当だとしたら、その娘の子を、密かに正室が引き取って育てていた、ということなのかもしれん」

 女子なので、側室の子供だったとしても、そう問題にはならないような気はするが。
 だがもし正室である大谷の姫君に、なかなか懐妊の兆しがなかったのなら、正室が側室の子を引き取って、己の子として育てていてもおかしくない。

「大谷の殿様には、お前は側室の子だとは言ってなかったのかも。すでに側室は死んでいたのかもしれんし。大谷は結構な人物だし、手を組むに不都合はない。戦上手だし、同じ西軍にあれば、かなり心強い武将だろう。……結局は負けて討たれてしまったがな」

「わらわは、正室の子じゃないから出されたの?」

「そこはわからん。でも漏れ聞くところによると、あそこの正室ってのは、側室の子であってもきちんと教育する、立派な人だそうだぜ。……一族を根絶やしにされるのを防ぐために出すとしたら、存在をあまり知られていない、お前がいいかもしれない。忍びの技も身についているしな。お前はちゃんとした家臣よりも、影の存在である真田の忍び者のほうが、親しいぐらいだったんじゃないか? 影の者と親しい、ということは、表の奴らの前には、お前もあまり姿を現さなかったということだ。影の者は、影に生きるもんだからな」
< 333 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop