夜香花
「親子で逆らったんだぜ。いくら兄貴が東軍についていても、徳川が恐れているのは、その親と弟だ。そんな者が、ただで済むと思うのか?」

 実際は、真田信繁は九度山に配流になるだけで済むのだが、これは異例な処置である。
 それに、この時点では、まだそこまではわかっていない。

「でも……。わらわの存在は、お家の人にも知られてないんでしょ」

 いくら深成が真砂の言うとおり、真田の次男の子供だとしても、今はこのような乱破の里で、ひっそりと存在しているだけだ。
 細川の屋敷にいたときだって、爺以外に深成に接触してきた者などいない。
 己の存在は、最早誰も知らないと言っても過言でないのではないか。

「そうであればいいんだがな」

 静かに呟く真砂に、深成は不安になる。

「お前を一番よく知るのが、大谷側では湯浅五助。真田側では、おそらく十勇士だろう。それが厄介だ」

 湯浅五助は死んだ。
 五助は闇の者ではなかったので、死んだらわかる。

 だが十勇士は闇の者だ。
 戦で死んでも、それが誰だかわからないのだ。
 存在が、公になっていないからだ。

 名は有名でも、その者を実際に目にした者は限られている。
 以前に捨吉が深成に言ったように、優れた忍びほど、その実像は誰も知らないものなのだ。

「十勇士がお前を担ぐために、取り返しに来るかもな。それだけならいいんだが、東軍側にお前の情報が漏れていたら、ここがヤバい。十勇士が裏切りでもしたら、たちまちお前を消しにかかるかもしれん」

「そんな側近中の側近が裏切るかな。忍びの者は、裏切らないんでしょ?」
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