夜香花
 真砂は、ふんと鼻を鳴らした。

「主持ちの忍びの考えなどわからん。だが主に忠実な奴ほど、主の窮地を救おうとするだろ。お前が切り札だと思えば、お前を取り返す作戦を立てるだろう。それはもちろん主に進言するだろうし、主が他の家臣に相談すれば、忍びからでなくても漏れる可能性はある」

「わらわが戻ったところで、何が出来るの? わらわが男の子ならともかく、女子なんて役に立たないんじゃないの?」

「血を残せばいいんだ。有力な家臣の誰かと子を成せばいい。その子供が男児なら万々歳ってわけだ」

 ひええぇっと、深成が仰け反った。
 そんな、いきなり連れ去られて、見も知らない誰かと子を成せなどと言われたら、どうすればいいのか。

「嫌だぁ、そんなこと。わらわ、まだそんなこと出来ないよぅ~」

「お前がずっと真田の家で育てられていたら、とうの昔にどこぞの家に嫁がされていただろうさ」

「えええっ。わらわ、まだ十一っ」

「有力大名の娘だったら普通だろ。いや、さすがにちょっと早いかな。相手を探し出す頃か」

 真砂だって、大名のことなどよく知らない。
 だが十五、六で嫁ぐのは普通のことだ。
 だとしたら、十一ともなれば、縁談の一つや二つは入ってくるだろう。
 婚約ぐらいはしておく頃かもしれない。
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