夜香花
第二十六章
 さわさわと、夜風に木の葉が揺れている。
 茂みの中で、清五郎はじっと息を殺して闇を睨んだ。
 ついさっきまで戯れていた女子は、すでに去ったはずだ。

 ゆら、と空気が動くのを感じた。
 間髪入れず、清五郎は短刀を構えて地を蹴った。
 いきなり飛び出した清五郎の攻撃を、黒い影が受け止める。
 がきん、と闇に火花が散った。

「何者だ」

 低く、清五郎が問う。
 清五郎が、この曲者を見つけたのは偶然だ。

 たまたま昼間に約束していた女子と戯れているときに、里の周囲に張り巡らされた罠が、僅かに音を立てるのを聞いたのだ。
 適当なことを言って女子を帰し、この里の入り口付近で、息を殺して潜んでおいた。

 相手もそれなりの者らしく、それから小半時ばかりは、何の動きも見せなかった。
 普通の者なら、気のせいだったかと思うほどの時間、身を潜めた結果、思った通り侵入者が姿を現したというわけだ。
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