夜香花
「聞いて素直に答えるとも思えんしな……。あいつに頼ろうにも、覚えてない可能性のほうが高いし、どうするか……」

「ああ、あのガキ、真田の姫君だって?」

 おそらく長老辺りから聞いたのだろう。
 清五郎が、奥で眠る深成を眺めて、少し笑った。

 その辺の村娘のように質素な着物に、貧相な身体。
 床に転がって眠る、この小さな少女は、どう見ても大名の姫君などには見えない。

「人は見かけによらんというが、それにしても、限度があるよな」

「何だとぅっ」

 いきなり深成が飛び起きて、清五郎を睨んだ。
 少し驚いて、清五郎は深成を見る。

「寝てたんじゃなかったのか?」

「折角気持ちよく寝てたのに、あんたが入ってきたから目が覚めたんだよっ」

 ということは、しばらくは狸寝入りをしていた、ということだ。

 しかし。
 真砂は訝しげに深成を見つめた。

 真砂と二人のときは、深成は本気でぐーすかと寝ていた。
 それは今までずっとそうだった。
 深成は真砂の傍では、警戒心なく眠るのだ。
< 341 / 544 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop