夜香花
 だとすると、深成に聞くのは無理だ。
 逆の方法はあるが……。

「こいつを、あの曲者の前に引き出せば、何らかの反応があるかもしれんぞ」

 同じ事を思った清五郎が、真砂に言った。
 確かに忍びの口を割らすことも、深成に人相を検めさせることも無理であれば、最後の手段は深成を見たときの、忍びの反応だ。
 深成を取り返しに来た真田の忍びであれ、殺しに来た東軍側の忍びであれ、その標的である深成を見れば、何らかの反応を示すはずだ。

「こいつの存在を公にして、大丈夫かな」

 深成の存在自体が、この里の命運を握っているかもしれないのだ。
 真田にしろ東軍にしろ、直系の姫君の存在を知ったこの里が、そのまま捨て置かれるとは思えない。
 真田側ならともかく、東軍であれば、深成もろとも、里を消し去ろうとするだろう。

「けどあの曲者は、どっちにしろ生きてこの里を出ることは出来ないぜ。だったら何を知っても、同じ事じゃないか?」

「まぁ……それはそうだが」

 歯切れ悪く答える真砂に、清五郎は不思議そうな顔をした。

「いつになく慎重だな。何がそんなに気になるんだ?」

 何が、と聞かれても、これ、とはっきりわかるわけではない。
 だが感じたこともないような不安が、真砂の心の底に、澱のように溜まっているのを感じるのだ。
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